第4章「で結局町内会・自治会やPTAって何なの」
1.町内会・自治会等
町内会・自治会等の住民自治組織の数は日本に約30万弱と言われており、同じ数だけ会長が存在することになります。乱暴な計算をすれば日本の世帯数が約4500万世帯ですから1人の会長当たり約150世帯をとりまとめていることになります。このような非常に身近な存在であるはずの町内会・自治会ですが、何を根拠に存在しているのかは意外と曖昧なままになっています。戦前は大政翼賛会の末端組織という暗い過去もあり、町内会・自治会不要論もあるようですが、現に役員となって右往左往している人達にとってじゃあ今年で解散とは行かないわけで、ともかく回覧板を配付したり、防災会に出席したり等するしかありません。
法的には平成3年の地方自治法改正までは町内会・自治会等は任意団体(権利能力なき社団)として扱われていたのが、同年4月の改正により「地縁による団体」(地方自治法260条の2①)という一定の位置づけを付与されました。ちなみに地方自治法260条は以下の通りです。
第260条の2〔地縁による団体〕
町又は字の区域その他市町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体(以下本条において「地縁による団体」という。)は、地域的な共同活動のための不動産又は不動産に関する権利等を保有するため市町村長の認可を受けたときは、その規約に定める目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。
(2)前項の認可は、地縁による団体のうち次に掲げる要件に該当するものについて、その団体の代表者が自治省令で定めるところにより行う申請に基づいて行う。
一 その区域の住民相互の連絡、環境の整備、集会施設の維持管理等良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動を行うことを目的とし、現にその活動を行つていると認められること。
二 その区域が、住民にとつて客観的に明らかなものとして定められていること。
三 その区域に住所を有するすべての個人は、構成員となることができるものとし、その相当数の者が現に構成員となつていること。
四 規約を定めていること。
(3)規約には、次に掲げる事項が定められていなければならない。
一 目的
二 名称
三 区域
四 事務所の所在地
五 構成員の資格に関する事項
六 代表者に関する事項
七 会議に関する事項
八 資産に関する事項
(4)第二項第二号の区域は、当該地縁による団体が相当の期間にわたつて存続している区域の現況によらなければならない。
(5)市町村長は、地縁による団体が第二項各号に掲げる要件に該当していると認めるときは、第一項の認可をしなければならない。
(6)第一項の認可は、当該認可を受けた地縁による団体を、公共団体その他の行政組織の一部とすることを意味するものと解釈してはならない。
(7)第一項の認可を受けた地縁による団体は、正当な理由がない限り、その区域に住所を有する個人の加入を拒んではならない。
(8)第一項の認可を受けた地縁による団体は、民主的な運営の下に、自主的に活動するものとし、構成員に対し不当な差別的取扱いをしてはならない。
(9)第一項の認可を受けた地縁による団体は、特定の政党のために利用してはならない。
(10)市町村長は、第一項の認可をしたときは、自治省令で定めるところにより、これを告示しなければならない。告示した事項に変更があつたときも、また同様とする。
(11)第一項の認可を受けた地縁による団体は、前項の規定に基づいて告示された事項に変更があつたときは、自治省令で定めるところにより、市町村長に届け出なければならない。(以下省略)
と相変わらず法律の文章は読みにくいのですが要は、
一定の条件を満たす町内会・自治会等が市町村長の認可を受けたときは、その名前で財産を登記することが出来る旨定められたわけです。しかしながらそもそも町内会・自治会に関する定めはというとどこにもありません。根拠は曖昧だが現に存在し、目に見えぬ強制力があるというのは何とも不思議な気がしますが、その不思議な組織の役員というのはもっと不思議な存在なのかもしれません。
長崎県諫早市のホームページを見ると
Q、町内会や自治会に加入すると、どんなことがよくなりますか……
A、1.市民と市政をつなぐ広報紙「広報いさはや」をはじめとした各種刊行物がご自宅に配付・回覧されます。
2.市指定のゴミ袋(年間50枚)が無料配付されます。
3.町内会・自治会が主催する祭りや運動会等の楽しい行事や活動に参加できます。
4.地域生活の中で起こる諸問題の解決に向けて、会員間での相互協力体制が確立されるとともに、町内会・自治会が行政とのパイプ役となって早期解決に導きます。
とあるのですが、結局4番目の「行政とのパイプ役」というのが、実質的な役割かなと言うのが実感です。ホームページといえば兵庫県明石市のホームページに「町内会・自治会ハンドブックQ&A」というコーナーがあって例えば
Q13 市からの委託事務には、どのようなものがありますか?
A)市では、登録されている自治会に対して、広報文書の配布、街路灯の管理協力、地域防災計画にかかる災害情報の連絡又は応急措置に対する協力などの業務をお願いしております。
特に多いのは、文書の配付ですが、できるだけ自治会の皆さんのお手数を省くため、市では、庁内の文書をコミュニティ課でとりまとめて、原則として毎月10日及び25日の2回を発送日としております。
なお、これらの業務に要する経費の一部として、市では、次の算定基準により委託費を決め、登録を受けた自治会にお支払いしております。
委託費=世帯割(550円×4月1日現在の世帯数)+均等割(5,000円)
※年度の途中で登録した自治会には、世帯割(月割)と均等割(全額)をお支払いします。
等19のQ&Aがあり参考になります。
町内会・自治会の組織は通常
市町村
連合会
自治会 自治会 自治会 自治会 --------
となっており、この「連合会」が行政との窓口になっているようです。もちろん私の所属する自治会にも「連合会」がありまして、会則には
目的:本会は、住民自治活動の向上発展に努め、関係行政機関等との連携を図るとともに自治会長相互の連絡を密にし、もって地域住民の福祉の向上と豊かな地域社会づくりに寄与することを目的とする。
事業:本会は目的を達成するために次に掲げる事業を行う。
1.住民組織の地位確保のため関係機関への陳情、要請等 2.本会会員相互の連絡調整と研修資料等の交換配付
3.その他本会の目的達成に必要な事業
と記載されています。
また夏頃に「地区別自治会長懇談会について」との案内が届き、
「懇談会には、市長をはじめ、助役、収入役、教育長---------------、各地区の自治会長が参加し、各地区から市への要望事項等について懇談を行います。つきましては連合会から市への要望事項等を取りまとめたいと存じますので、各自治会長様から、要望事項案を出していただくようお願いいたします。」
と記載されています。
ただ私のように引っ越して1年足らずでくじ引いて会長になった者にとっては、そんなこと言われても困るというのが正直な感想です。連合会の集まりで積極的に発言される熱心な会長さんに比べると私などは会長失格かもしれません。
教科書的には町内会・自治会には
・親睦機能
・共同防衛機能
・環境整備機能
・行政補助機能
・圧力団体機能 等の役割があり、コニュニティ形成に重要な役割を果たしている
となるのでしょうが、実態は仕事の合間を縫って日々役所から届けられる「事務委託」をこなすのに精一杯で、何がコミュニティかというのが本音かと思います。
事務委託の具体例は以下の通りですが、中には予算がないから町内会・自治会に押しつけているだけではないかと文句のひとつもつけたくなることがあります。これらの「事務委託」の結果町内会・自治会自治会が抱える問題点が図のようになっているわけですから、その辺りの議論を抜きにして町内会・自治会の未来は無いのではと思われます。
2.PTA
PTAが町内会・自治会と異なるのはPTAとして、全国協議会があり、その下に地方協議会があり、さらにその下に各地区連合会があって単位PTA(学校毎)があってと見事なまでの階層構造ができあがっていることです。そのトップが社団法人日本PTA全国協議会でして同協議会のホームページを見ると、全国で3万以上ものPTAが存在することが解ります。つまりPAT会長といっても全国で3万人以上いるわけで、会長も3万分の1と思えば気も楽になるのではないでしょうか。これだけ組織が大きくなると影響力も大きいでしょうから、当然批判的な団体も出てくるかと思います。私のように文部省を1年で辞めた人間が言うのもおこがましいのですが、教育の問題は誰もが経験する問題だけに(例えば私の専門分野である会計の中の「税効果会計」などでしたら、一生知らずとも何の実害もないでしょうが)、イデオロギーの対立になりがちであり、なんとなく役員になってしまった方は、その対立に巻き込まれないように慎重に対応する必要があります。第2章PTAの支出でくどいほど「私費」「公費」の話をしたのは、実はこういった背景があるからです。
あと余談ですが社団法人日本PTA全国協議会に電話で会計報告書を要求したのですが前例がないと断られてしまいました。
3.コミュニティ、NPOについて
この書物では「会計」の観点から町内会・自治会とPTAを見たのですが、両者はともに「コニュニティ」の一種類であるという共通点があります。普段の活動の中ではあまり意識することは無いかもしれませんが、何かの縁で役員になったのですから、コニュニティとは何かについて考えてみるのもよいかもしれません。また近年「NPO」
という言葉を新聞等でよく見かけます。NPOについては昨年税制上の手当がなされ我が国において活躍が期待される組織であるのですが、今後町内会・自治会やPTAと関係を持つことが予想されます。そのため役員として最低限の知識を持つことは必要かと思われます。
(1)コミュニティという用語は1960年代頃から使用され国民生活審議会調査部会コミュニティ問題小委員会(昭和44年)は「市民としての自主性と責任を自覚した個人および家族を構成主体として、地域性と各種共通目標をもった、開放的でしかも構成員相互に信頼感のある集団」と定義しています。またコミュニティの種類としては一般に
・近隣
・町内会・自治会
・学区、住区、地区 等が
あると言われています。またある研究によるとコミュニティ組織の構成メンバーは以下のように類型化されるとのことですので、町内会・自治会やPTA役員は意図せずしてコミュニティの重要な担い手になったと言えます。
①自治会・町内会(連合会を含む)型(36.1 %、82 自治体)
②自治会・町内会+地域組織(PTA 、婦人会、老人クラブ等)型(29.8 %、68 自治体)
③(地域住民への)一般公募型(0.9 %、2 自治体)
④自治会・町内会+地域組織+一般公募型(3.6 %、8 自治体)
⑤自治会・町内会+地域組織+市民活動組織(地域を単位に活動するボランティアグル
ープ、NPO 法人等)型(11.8 %、27 自治体)
⑥自治会・町内会+地域組織+市民活動組織+一般公募型(3.9 %、9 自治体)
この「意図せずして」というのと先の定義の「責任と自主性を自覚した個人」との間にはかなりのギャップがあると思うのですが、役員としてゴミや違法駐車等の問題の解決に迫られた際に(私の場合匿名のお手紙を頂戴しました。)あたふたと対応しているのが結局はコミュニティの担い手としての役割を果たしていることになるのかもしれません。名称こそ異なるもののコミュニティ担当窓口がどの市町村にも設置されているでしょうから、困ったことがあれば、電話や訪問等して相談すべきかと思います。仕事の合間に役所の事務の肩代わり(正しくは「民間への事務委託」あるいは「アウトソーシング」と呼ぶらしいですが)を行っているのですから、自分独りで問題を抱え込むことはありません。
(2)NPOとは「nonprofit organization」の略称でして民間非営利組織を意味し組織形態、活動内容等の異なる様々な団体が含まれます。非営利組織というと全くのボランティア団体と思われがちですが、事業活動を行うことは可能でただその活動から生じる利益を利害関係者に分配することが禁止されているということです。
平成10年に公表された「NPOワーキンググループ報告書」によるとNPOと町内会・自治会の地縁組織について以下のような記述があります。
「行政改革の流れの中で、高齢者問題、子育て、環境・リサイクル、まちづくり、青少年問題、防犯・防災などは政府にすべてを期待することは不可能であり、さらに、グローバル化や規制緩和が進められていく中で、住民の安定した生活基盤を確保するためにも、住民が政府と一体となって対応していくことが不可欠である。こうした中、地域の特徴を踏まえてこれらの問題に取り組める組織はコミュニティであり、個人の地域における生活を守る拠り所として、特に都市部では何らかの形で住民を結び付けていくコミュニティが求められている。
コミュニティの形成は、地縁組織によるのか、それとも知縁型で参加自由のNPOによるかと択一的に考えるのではなく、両者がそれぞれの持ち味を生かして協調していくことが望ましい。例えば、ごみ処理や町の景観の保全など住環境の管理に関する問題では住民が全員参加する地縁組織の役割が大きく、福祉、文化活動などコミュニティを横断する地域内の課題についてはNPOが一定の役割を担い、国際交流や地球環境のような地域を越えた問題についてはNPOの役割が中心になる。地縁組織を足場にして特定の問題について有志の住民がNPOを作ると、既存の地縁組織を変革し、地域の課題の解決に重要な役割を担うことができるようになる。
また、大都市では近年、住民組織は地域団体を足場にした有志の住民の集まりとしての性格が強くなり、NPO化しつつあるものがある。また、下町のような助け合いのネットワークが乏しい団地の自治会の高齢者が、地域の地域福祉サービスを提供するNPOの支援を受けながら活動グループを結成するなど、NPOと密接な関係を築いている地縁組織の動きがあり、両者がネットワークを構築していくことが課題になっている。一方、町村部を中心とする地域では地縁組織が未だ地域づくりの担い手と考えられており、NPOが地方でも根付くためには、地域ごとの手法を認識しながら地縁組織とNPOを関連づけ、地域に密着したNPOの活性化が求められる。」
町内会・自治会やPTAに一定の評価を与えて頂くのは役員を経験したものとして嬉しいのですが、ほとんどの役員はくじ運の不幸を嘆き、寝る間を惜しんで資料を作り、問題が起これば批判の矢面にさらされるというのが、実態です。NPOといった新しい組織形態を通じて、既存の地縁組織等の現状、問題点と改善策について検討する場が必要ではないかと思います。