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(第2章以下は引用されている資料や新聞記事が出版当時の古いままになっています。気になる方は読み飛ばしていただいて結構です。)

 

 

 

第2章「会計報告書って何?」

1.基本の基本
 会計報告は何故必要なのでしょうか。やりたくもないのに役員を引き受けさせられて訳のわからぬ報告書を作らされて、その上承認までをも求めらさせられるのは何故でしょうか。それは「他人のお金を預かっている以上、それがどのように支出されたかを、構成員に説明すべき義務があるからです」。(専門用語で「アカウンタビリティ」といいます。)
通常町内会・自治会やPTA個々人の会費はそう多額になることは無いでしょうが、だからといって報告を怠ることは許されません。金額の多寡は問題ではなく、人のお金という点が大切なポイントです。
 もちろんだからといって必要以上に神経質になることはありません。町内会・自治会やPTAとして必要な経費は当然収入の中から支出すべきものでありいわゆる自腹を切るのは誤った考え方かと思われます。大切なのは町内会・自治会やPTAの収入・費用かどうかを冷静に考えて判断することです。

2.報告書の仕組み
 町内会、自治会及びPTAの会計決算報告書の実例を次に記載してあります。
報告書の見方のポイントは4つです。
まず始めに 
前年度繰越+今年度収入=今年度支出+翌年度繰越
と必ずなることです。


これを図で示しますと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

となります。収入については大半が会費として固定的に徴収されるものでしょうから、支出如何で翌年度繰越金が決まります。通常は繰越金が毎年ほぼ同程度になっているかと思われます。
次に予算額と決算額が比較されていることです。なぜ両者を比較する必要があるのかについては後述します。
さらに「特別積立金」等の「特別勘定」(対応するのは「一般勘定」と言います。)という用語があることです。
最後にいずれも「会計監査」を受けていることです。

以下これらのポイントについて説明していきたいと思います。町内会、自治会とPTAに共通する項目は併せて説明しますし、個々の問題点については内容を分けて説明していきたいと思います。

 

 


3.収入と支出
   
(1)町内会・自治会の収入
(ア)会費収入 
まず会費収入があります。町内会・自治会の最初の仕事が、会費の徴収に戸別訪問をすることかと思われます。この際には第1部で述べた金銭出納の基本を忠実に守ってください。その他に大切なことは規約を確認し、自治会の中で統一した取扱をすることです。例えば4月1日の引越の方なら常識的には4月分を徴収するのでしょうが、4月21日の引越の方はどうするのか、ある方は徴収し、他の方は5月分からの徴収では不公平でトラブルの火種になりかねません。会長か会計に問い合わせの窓口を一本化しておいてください。

ところで自治会には必ず加入しなければいけないものなのでしょうか。答えはノーで、加入するかしないかはあくまで住民の方の任意です。

 

 

また平成13年5月22日付の新聞記事によりますと、鹿児島市では自治会等への加入率の低下に対応し、補助事業を増やす等の対応策を検討しているとのことです。
反面、次のような新聞報道もあり地方自治体の姿勢は一様ではないようです。
「自治会のPRに市も協力して――。宇都宮市議会の地方分権特別調査委員会で17日、そんな意見が出た。だが、市側は「自治会は任意団体で行政による勧誘はふさわしくない」とやんわり拒否。加入率アップのPRは市民協力か行政介入か。議論が分かれている。 
 自治会を中心とした防災組織の立ち上げに触れ、○○市議が質問した。「非常事態に備えるには地域の意識が重要。市は自治会をどう位置づけるのか」。加入率70%の現状は低すぎるとも。 
 これに答えた市民生活部長は「自治会は尊重したいが、行政の『入ってください』というお願いは強制加入と受け取られかねない」。鹿沼市や矢板市では、市民課の窓口で自治会加入を勧めるチラシを転入者らに別の資料とともに手渡しているが、宇都宮市は同様のパンフレットを窓口近くに置くだけにしている。「ほかの自治体でやっているのに」と○○氏は詰め寄った。 
 自ら自治会長も務める○○氏にすれば加入者の減少は悩みだ。例えばごみステーションの管理。「見張ってないと別の地区の人が車で捨てていく」。一方で「加入率引き上げは自治会が努力するべきで、行政に頼る必要はない」という声も。 
 部長は「加入世帯を増やしたい気持ちは同じですが、強制はできません。別のかたちの協力を探りたいのですが」。協力と介入。線引きは難しそうだ。」
 平成13年年04月19日朝日新聞

 

 


ただ実際に会費の徴収に行くのは役員や班長さん等なのですから、もし加入を拒否される方があっても強制するのではなく、自治会の役割(一番説得力があるのが地震等の災害時の役割かと思います。)を説明しそれでも御納得いただけなければ、諦める旨徹底しておく必要があるかと思います。
またいきなり役員になった方は会費を徴収するのに精一杯で、果たして会費自体が適正なのかと疑問を挟む余地は無いかもしれません。以下の資料を参考にしてあまりに常識外のケースなら(過去は自治体が各世帯の収入に関する情報を町内会に提供し、その資料を基に会費を徴収していた例もあったようですが、言語道断でしょう)変更することを検討してもよいかと思われます。

 

 


(イ)補助金収入
次に補助金収入があります。この補助金収入というのが、役員にとって実に解りにくいものでして一体誰が(役所か連合会か)、何の根拠で(おそらくそれぞれ根拠となる条例等があるのでしょうが)支給するのか理解が困難です。おまけに例えば世帯数に単純に定額を乗じる方式のものならば解りやすいのですが、一定の財源を配分する方式の補助金はどのように査定を行ってるのか不透明な部分があります。もっとも新任役員としては査定については余り気にする必要はなく、補助金申請のための書類の書き方を前年度の例で確認し、仮に実際支出した経費の根拠が必要ならば領収書等の書類で明確にしておくことが大切です。その際領収書に「××行事のため」とかの摘要を記入してもらうか、あるいはレシートの余白に自分で記入しておくようにしてください。
 ちなみに私が住んでいる地域には以下のような補助金制度があるそうです。
 ・防犯灯電気料金補助金
 ・まつり推進事業補助金
 ・自治会掲示板設置補助金
 ・地区集会所補助金
 ・自治会の運動会補助金
 

 

 

 


(ウ)寄付金収入
 祭りの寄付金とか、いわゆる迷惑料が寄付金収入に該当するのでしょうが、この項目には役員として注意が必要です。
 祭り等の特定目的の寄付金については、「特別勘定」を設けるのが良いかと思います。特別勘定については別途説明します。

いわゆる迷惑料的な収入の取扱には細心の注意が必要です。通常自治会内に一定規模の商業施設(スーパー等)あるいは居住施設(マンション等)を設置しようとする事業者は、説明会を開催や、いわゆる「迷惑料」を自治会や当該施設の隣接住民に配付することがあります。「迷惑料」は金銭の場合もあるでしょうし「手土産」の場合もあるかもしれません。自治会の役員としてはどう対応すべきでしょうか。
当該施設が住民の要望に基づいて設置されるものであれば問題も少ないかもしれませんが、反対運動の対象施設かもしれません。大切なことは「金銭・物品をうかつには受け取らない。利益の供与は受けない」ことです。「利益の供与」とは堅苦しい言葉ですが、例えば「説明会」と称された席に一部役員だけが招待され、食事の提供を受けたとしたら、他の住民はどう思うでしょうか。事業者と一体となっているような印象を与えるだけでもトラブルの基になりかねません。私の聞いた事例では「とにかく現場に来てくれ」と言われて何気なく出かけたところ、土地の境界確定のための現場で危うく「立会人」にされそうになったことがあります。事業者は百戦錬磨の相手ですから言い方は悪いかもしれませんが最初は疑ってかかるのが賢明でしょう。
ではそうとは知らず金品を受け取ってしまった場合はどうすれば良いでしょうか。
いわゆる社会的な常識的儀礼の範囲内かどうかにもよるのでしょうが、まずは何らかの手段で「返す」ことを考えるべきかと思います。通常のケースではあり得ないとは思いますが特に金銭を受け取ったときは迷わず返還すべきです。その際返金の記録が残るように相手先の口座に振り込むようにしてください。中元・歳暮等で品物を受け取った時はどうすれば良いでしょうか。私の場合は迷惑料ではないのですが、業者から中元を受け取って取扱に困ったことがあります。この時は考えたあげく、時価で買い取ることにしました。黙って受け取るのは嫌だし、かといって数千円程度のものをわざわざ返しに行くのも面倒だしと思案したのですが、自治会の会長だからこそ業者も送ってくるわけですから、やはりけじめは付けた方がよいと判断してスーパーで値段を調べて「こういう業者から、こういう名目で品物を受領した。ついては私が時価で買取り代金を自治会の雑収入に入れたい」旨役員の方に了解を求めて、承認頂きました。数千円のためにそこまでする必要は無いという考え方もあるでしょうが事業者とのつきあいは金銭がらみのその場限りのものであるのに対して、近所の方とは末長いつきあいですから、事実をありのまま正確に伝えること、いわゆるディスクロージャーが自治会においても必要かと思っています。

その他、集会場の利用収入や廃品回収等の収入が発生するかもしれません。これらの収入のポイントは本当に自治会の活動からの収入かと言うことです。地域によっては祭りを自治会以外の主体が取り仕切っている例が多いかと思いますが、その場合収入はあくまでその主体に帰属させるべきであり、自治会は徴収の代行をしているだけと考えるべきです。徴収の際には最初に団体間で良く話し合いをしてルールを明確にし、お金を集める際にもどの立場で集金に行っているのか相手に伝えるよう、班長さん等に徹底してください。もちろん領収書もお金の帰属団体の名義で記入するようにしてください。


(エ)会長費
 このような用語が一般的かは定かではありませんが、会長に一任される収入が市町村から補助される場合があります。私の場合は会長自ら印鑑持参で市役所に取りにくるように文書を受け取り、担当課へ出向いたところ「自治会長活動交付金」というのを現金で渡されました。何のためのお金ですかと聞いたところ「役員の親睦のためです」といわれ、会計報告にはどう記載するのですかと聞きますと「各自治会の判断に任せています」との返事で何とも嫌な気持ちで受け取ったのを記憶しています。会長費については次の新聞報道のように裁判にまで発展しているケースがあります。

 「昨秋、大津市内の住民二十二人が同市長らを相手取り、市が「市政協力への謝礼」などとして自治会や自治会長に支出している「報償金」は違法として、市長らに返還を求める訴訟を大津地裁に起こした。
大津市の自治会長を経験した六十代の男性は、役員会で「会長報償金」が入った封筒を受け取った。自治会の会計には載らない金だった。役員を務めていた間、自宅の電話代の半分は自治会の活動分だった。こうした個人負担に行政の補助は必要と考える。だが「支出根拠が明文化されていない金を受け取ると、その時点で行政と対等の立場に立てない」という思いをぬぐうことができなかった。」 
平成13年年2月6日 朝日新聞
 
 いきなり会長になってしまった皆さんはどう対応すれば良いでしょうか。確かに私自身も自治会活動のために電話代はかなり支出しているとは思うのですが如何せん記録はありません。もちろんNTT等の通信記録からは特定できるのでしょうが、電話代が必要なのは会長だけでなく他の役員も同様です。
 まず大事なのは情報を開示することです。つまり役員会等でこれこれの名目で幾ら受け取ったかをまず明らかにすることです。次に帳簿をつけることです。といっても難しいことは無く、「こずかい帳」で結構です。
メモ帳などに記録しておいて、一年分を最低でも役員出来れば班長や部長等の役割の方に文書で明らかにしてください。この際「飲食代」が一人幾ら程度までが妥当なのかという問題があります。もちろんこれでいいと言った明確な根拠はないのですが、税務上の会議費と交際費とのガイドラインを勘案して一人3000円程度が目安になるのではと思われます。但し大切なのは金額よりも町内会・自治会の活動のために必要かどうかと言う観点ですから、対象とする会合は役員全員に呼びかけるものに限定すべきです。またスナック等の二次会は常識的に個人負担すべきです。
 差引については無理に使い切ろうとせずに、余ったのならば自治会の会計の収入にするのが本来の姿かと思います。収入の中には利子等を入金する「雑収入」という項目がありますので、その中で処理すれば良いでしょう。


(2)町内会・自治会の支出
 町内会・自治会の支出は交通費・通信費・消耗品費・修繕費・会議費等の総務的な支出と例えば夏祭りなどの行事や専門部(環境部会や婦人部会等各々異なるかと思います。)への支出等の活動費に区分できます。
 総務的な支出の中で問題となりやすい支出は会議費でして、通常の会議程度ではお茶とお菓子程度でそれほど多額にはならないはずです。ところが会議費の中にいわゆる親睦費的な支出が含まれる場合があり、先の「会長費」との関係で難しい所もあるかもしれませんが、ここでの会議費はお茶とお菓子程度の支出を処理するのが本来のあり方かと思われます。
 活動費については前年と同じような事業を行っている限り、特に変動はないかと思います。この活動費の中で問題となりやすいのが、募金や他の団体への寄付金です。私自身当初会計予算の中に「日本赤十字共同募金」や「共同募金」が計上されているのに、多少違和感を覚えたのですが、実際右のような「委嘱状」を頂戴し同時に社会福祉協議会宛の振込用紙と
一世帯 228円×世帯数=自治会社資目標額
と計算根拠を示されると、はて何故228円なのかと訳がわからなくなります。もちろん
「昨年に引き続き」振込はしたのですが、どの団体には寄付をしてどの団体なら断るのかという基準については全く解りません。文献には「寄付金には、日赤共同募金や神社の初穂料などのように毎年支出が定期的におこるものについて、あらかじめ町内会等の予算のなかに一括して組み込んでおくこともみられるが、それは上述のように、会構成員の任意の拠出にもとづくことが原則であり、一括処理はさけるべきである。」との記述もあるのですが、確かに理屈はそうでも毎年役員が交代する町内会・自治会等では役員になった時点で、予算案は承認済でしてあえてそれを覆すのは難しいかと思われます。結局常識的に判断して処理するしかないのでしょうが、役員としては一応の問題意識は持っていた方が良いのではないでしょうか。

 

 

(3)PTAの収入
PTAについては自治会以上に強制加入と思われてる方が多いかもしれませんが,実は加入は保護者の自由です。 但し下に示すような加入の申込書の一例を子供が持って帰ってくれば保護者の自由とはいえ加入を断るのはかなり勇気がいるかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通常PTAの会費は口座振替で徴収することが通例でしょうから町内会・自治会のように個別に訪問する手間はありません。

(4)PTAの支出
  PATの支出については各地で問題となっている現実があります。例えば以下の文章はPTA会計について問題提起を行っているホームページから抜粋したものなのですが、皆さんは何が問題となっているか解るでしょうか。

「○○が入手した○○高校の平成12年度PTA総会要項によると、同校ではPTA会計、教育振興費会計、PTA特別会計「特別指導費」から予め予算に拠出金という項目が作られており、それぞれの会計から140万円、200万円、75万円が支出され、PTA特別会計「周年事業等特別基金」に繰り入れられています。 
 これは本来任意の寄付で集められるべき周年事業費を他の会計に故意に紛れ込ませて強制的に徴収するという、県教委の定めた「私費会計の会計処理基準」を大きく逸脱するものです。 
 そうして集められた「周年事業等基金」は11年度末で557万円も残額があります。この会計から昨年1年間に支出されたのは、部活動奨励費と部活動指導旅費の約112万円です。部活動指導費は別にPTA特別会計「特別指導費」という会計があり、生徒1人当たり2000円(年額)を徴収しています。周年事業等基金から支出された112万円は本来この会計から支出されるべきものです。 
 また、繰越金の異常な多さも目立ちます。「特別指導費」会計では昨年458万円の予算のうち234万円も前年度からの繰越金があり、昨年1年間の支出は周年事業等基 金への拠出金を除けば、243万円しかありません。PTA会費にしても、545万6千円の予算のうち前年度からの繰越金が約240万円もあり、支出はPTA会計から本 来支出するべきものに項目を限定すれば120万円しかありません。 
 PTA会計では事業費という項目で学校行事等への支出が見られ(昨年度は190万円を支出、12年度は150万円の予算)、本来公費でまかなわれなければならない運 営費の一部を肩代わりしているのではないかと思われます。周年事業等基金への拠出金や学校行事等への事業費の支出がなければ、PTA会費は220万円も少なくてすみ( 12年度)、1人当たりの会費を250円から153円に値下げすることができます。 
 また今年度は体育館改修に伴う経費200万円を「周年事業等基金」から支出する予定になっています。本来県費で行われるべき体育館改修工事に他の会計から流用して積み立てた「周年事業等基金」を充てるのは重大な問題です。 
 学校側としては自由に使えるお金が大量にあれば学校運営はやりやすいでしょう。しかし、保護者や生徒にとってみれば本来不必要な(PTA会費や教育振興費、特別指導費にかぶせた)お金が取られているのです。 
 PTA総会や運営協議会で賛成を得ればどんなお金も自由に集められるというものではありません。公費補完的な経費や任意の申し出による寄付を一律に学校徴収金に組み込んで徴収することは許されません。 
  最後に、多額の資金を積み立てることが、私費会計をめぐる数々の不正事件の大きな原因であったことを考えると、○○高校の周年事業等基金のような会計は直ちに廃止するべきです。」

 専門的な用語が多く解りにくいかもしれませんが、ここでのキーワードは「私費会計」です。「私費」の反対言葉が「公費」なのですが、この区分が適正かどうか、つまり本来公費から支出すべき項目を、「私費」のひとつであるPTA会計から支出していないかが、問題となります。
 もっと身近な例で説明すれば、あなたがPTAの役員になって校長先生とかと話をしていると必ず、校舎が老朽化しているとかどの備品が不足しているとかの愚痴を聞かされるはずです。本来学校の備品は「公費」の中で予算化され支払われるものなのですが、現状として市町村や都道府県の教育予算には限りがありますから、すべての学校の要求が通るわけではありません。そこでPTA会計からこれこれの備品を購入してくらないかと、お願いされるわけです。スリッパとか扇風機程度ならまあいいかとなるかもしれませんが、ピアノとかでしたら数十万もしますし少々判断が難しくなります。校舎の補修をPTA会費からとなれば明らかにおかしいような気がします。


 ここでPTAの町内会・自治会と異なる難しさは、町内会・自治会は住民といった同質の人間の集まりであるのに対して、PTAは教師と保護者という異質な人間の組織である点です。なにせ相手はかわいい子供を預けている学校の校長先生とか教頭先生ですから、そう無下には断るわけにはいかないでしょう。
 ではどうするか。公の文章となった判断基準を示してその基準を基にして話し合うことです。各自治体の教育委員会に問い合わせていただければ、おそらくPTA会計に関する何らかの「マニュアル」があるかと思いますが、私が良くまとまっているなと思う資料が東京都教育委員会が作成した
 「学校徴収金会計事務マニュアル」(平成12年3月)
 「~PTA役員のための~PTA会計の事務マニュアル(都立学校編)」(同上)
です。これらの資料は残念ながら市販されているものではなく、私自身都庁3階の情報コーナーで入手したものなのですが、PTAの会計事務に参考になるかと思います。

 

PTA会計は学校関係経費の中の私費の中の管理受託的業務の中のひとつに該当します。(このあたりはいわゆる役所用語で複雑ですが我慢してください)

このPTA会計は「PTA規約や活動方針に基づいたPTA活動に必要な経費の収入・支出を適正に処理するための会計」と定義されるのですが、これでもまだ抽象的で解りにくいでしょうから、次の「PTAの支出として不適切な経費」(上記「学校徴収金会計事務マニュアル」p107より抜粋)の例を見ていただければ具体的なイメージがわくかもしれません。

「PTA会計の支出として不適切な経費とはどのような経費を言いますか
 PTAの運営経費をどのような用途に支出するかは、PTAが独自に決定することが基本です。つまり、支出が規約及び活動方針に基づいており、かつ、PTAの機関決定があればPTA活動費として支出することが可能です。
 しかし、私費負担軽減等の観点から、次のような支出は不適切な支出といえます。
(1)PTA雇用職員を教職員が行うべき公務に従事させる場合の雇用費用
(2)教職員に対する部活指導謝礼(合宿旅費、引率旅費、謝礼等)
(3)教職員に対する進路指導謝礼
(4)教職員個人の資格で参加している各種会合、研究大会等の分担金や食糧費
(5)教職員に対する餞別金、記念品代
(6)学校の備品(卒業記念品等寄付含む。)、消耗品、施設整備費、施設補修費」

学校側から何らかの依頼があればまずこの文章を示して原則としてこれらの経費はPTAから支出は出来ない旨伝えるようにしてください。ただ経験上「学校の備品(卒業記念品等寄付含む。)、消耗品」あたりは判断が難しく、とりあえずPTAで使用するからとの名目で購入して実態は学校の備品、消耗品となっている事例も多々あるでしょう。
好きこのんで役員になったわけでもないのに、このような難しい問題があったとはと困ったものですが、大切なのは、思いつきだけで受け答えするのではなく、教育委員会等が作成したマニュアルに沿って判断したことを明らかにすることかと思います。

最後に教育問題全般について活動している市民団体が開設しているホームページから引用させていただきます。
「「PTAの危うさ」と「学校徴収金のいいかげんさ」については、すでに述べましたが、これら、危ういPTAと、いいかげんな学校徴収金が、ひとつになった例は多く見られます。 違法な学校徴収金をPTAが積極的に集めてしまうのです。本来、PTAは、違法である学校徴収金を止めさせるべき措置を取らなければなりませんが、問題意識を持たず、学校の後援会的団体に甘んじているPTAには、無理からぬ事かも知れません。 
 ある中学校では、学校運営に最低限必要な消耗品を学校長の名で徴集しておきながら、その会計をPTAにおこなわせ、「PTAの徴収金だから、学校は違法なことはしていない。」と白を切る学校もあります。こうなると、学校はペテン師で、PTAは哀れな共犯者です。PTAは、基本的に会費のみを徴集し、会費によって事業をすすめなければなりません。そのへんの社会通念というか、当たり前のことがわかっていない人びとがPTAに携わっているようで、これはとても、学校徴収金の違法性などを指摘できないというわけです。 
 改めて言いますと、「義務教育は無償です。」 学校運営に必要な備品、消耗品は、学校の設置者である自治体の持つべき勘定です。 教材費、修学旅行費、給食費など子ども本人に直接還元されるものですら、学校が、一方的に額を決めて徴集して良いわけがありません。教材費であれば、どんな教材が必要で、どこまでを個人で揃えるか、などを学校と親が、話し合いのもとに決めるべきなのです。そのことを学校もPTAも面倒がってしないのです。修学旅行などは、自治体によっては60年前とずうっと同じところに行っているというところもあります。60年前と修学旅行に求められる教育的価値が、同じわけがありません。 これは、教育の怠慢以外のなにものでもなく、そのためには、親は、安くない修学旅行費を支払わされているのです。しかし、PTAは、何も言わないばかりか、「声」をあげても、握り潰してしまう学校親衛隊となっています。子どもたちの教育的環境を整えるのがPTAです。 
 さて、PTAが、時として出るまともな「声」を握り潰すには、理由があります。第一、全国的に文部省がひな形として作った、学校にとって都合の良い「PTA規約」があるからです。PTA規約の中に「学校運営、方針、人事について干渉しない。」と言くだりがあります。これは、親の学校教育への参加権を誤解させています。勿論、PTA規約は改正することができますが、もともと、参加意識の希薄な会員を多数抱えているので、規約改正に充分な賛同を得られないと言うわけです。参加意識が希薄な会員は、学校にとっては、こういう場合都合が多いのです。そのような参加意識の希薄な会員は先に述べた、「PTAの危うさ」の中の、強制加入もどきで加入させられた人たちであることは、言うまでもありません。こういう点で、強制加入もどきは、実は学校にとって計算どおりのことなのです。 
 PTAの形骸化の一因は、任意加入であることをきちんと説明しなかったことにあると言わざるを得ません。」

4.予算額と決算額
  町内会・自治会やPTAいずれにおいても予算案を作成し総会での承認を得ることが必要となります。予算案はそれのみで決定できるものではなく、事業計画案を基にしていますので、まず事業計画案を決定する必要があります。では誰が事業計画案や予算案を決定するのでしょうか。理想的には

 2月中までに新役員を決める
   ↓
 3月中に新旧役員会を2~3回程度開催する。この場で旧役員から前年度の事業の実施状況や問題点・課題等の報告を行い、新旧役員で新年度の事業のあり方等を協議し案を作成する。また十分な業務の引継を行う。
   ↓
 4月より新年度開始
   ↓
 3月下旬から5月上旬頃までに総会を開催する。

とポイントは「新旧役員会」にあるのですが、現実問題として充実した新旧役員会を開催するのは困難です。まず3月中になっても新役員が未定のケースがあるでしょう。またたとえ決定していても新役員は4月からの任期と考えていますので3月の会議には余り気合いが入りません。また旧役員は新役員選出段階でほっと一息ついていますので、引継はどうしてもおっくうになりがちです。
 これらの要因が重なって結局来年度の事業計画案と予算案は旧役員が旧年度の計画・予算をそのままコピーし、新役員は総会からスタートするというのが現実かと思われます。

 


5.特別勘定
  特別勘定とは一定の目的の収入と支出を明らかにするために設けられるもので右の図が一例です。基本的な構造は一般勘定と同様ですが、前期繰越と翌期繰越がある場合と無い場合があります。例えば周年事業のために積立をする場合は前期繰越や翌期繰越が発生しますし、祭り等特定目的の事業であれば、たとえ毎年開催していたとしても都度一度きりと考えて収入と支出を完結させるのです。もちろん収入と支出がピタリと一致すれば問題ないのですが通常はそういったことはありえません。では差額はどうするのかというと、収入のほうが多ければ、右側に「一般勘定への戻し入れ」が発生しますし、支出のほうが多ければ左側に「一般勘定からの繰入」が発生します。この項目によって左右が一致するわけです。もっとも収入・支出どちらが多くなるかは解りませんし、準備のための支出が先行して発生するのが通常でしょうから、「一般勘定からの繰入」と「一般勘定への戻し入れ」の両方が発生します。この際大切なことは同じ一般勘定だからといって差引(相殺)することはせずに両方の金額を記入しておくことです。
難しい用語では「総額主義の原則」というのですが、用語はともかくとして、実際のお金の動き(通常はまず一般勘定からおよその金額を特別勘定に移して、余ったお金を一般勘定に戻すのが通常でしょうから)を出来るだけ忠実に決算書に表現するのが、誤解を招かないための方策です。

 

 


6.会計監査
  企業や自治体の会計監査を仕事としている者にとって身びいきな点があるかもしれませんが、会計監査というのは非常に大切や仕事です。にもかかわらず、町内会・自治会にせよPTAにせよ会計監査という役職は役員の中でも末席に位置し、何となく楽なイメージがつきまといます。たいていは年2回ほど通帳や領収書に目を通して決算報告書の一番下の「上記のとおり相違ないことを認めます」との欄に署名・押印し、総会の際に「○○年度分の会計について監査を行いました結果、会計の収支は適正であり、且つ会計報告は適正に表示されていることを認めます。会計監査 ○○ ○○」とメモを読み上げれば終わりです。でも本当にそれだけでよいのでしょうか。
  一般的に会計監査というのは「企業の会計が会計手続きや会計原則に基づき正しく記録されているかどうかを記録者以外の者が検査証明すること。」と定義されるのですが、ここでのポイントは「会計手続きや会計原則に基づき」という点と「記録者以外の者」が行うという点です。
  まず第1のポイントの「会計手続きや会計原則に基づき」というのは企業とかの会計監査を念頭に置いていますので町内会・自治会やPTAの場合は「自治会規約」や「PTA規約」と読み替えてください。つまり収入や支出が町内会・自治会やPTAの本来の目的に添ったものであるか否かをチャックすればよいのです。本来の目的か否をチェックするためには領収書等の資料がきちんと揃っているか、またその内容(摘要欄を見れば解るはずです。)を見ていけば良いのです。もちろん監査担当の人が一人で見ていてもわからない点が多々あるでしょうから、必ず会長と会計には立ち会ってもらう必要があります。特に領収書のない支出や、スナック等の領収書、またやけに丸い金額の領収書は要チェックです。当てずっぽでも良いので監査の時に質問をしてみれば(摘要のない領収書で発行先の名前からは何のための支出か不明なもの当たりがよいでしょう)仕事をしたような気分になるかと思います。
  またこれは最低限必要な作業なのですが、必ず通帳に目を通し、前年3月末と今年3月末の数字が前年度及び当年度の決算書と一致しているかを確認し、また不相応に多額の出入りがないか確認しておいてください。通帳と印鑑の保管者が別々になっているような場合は安心できますが、会計が両方保管しているケース(このケースが大半かと思いますが)や会長が両方保管しているケース(このケースは危ないと疑って掛かって良いでしょう。下記の新聞記事を参考にしてください。)は、その気になれば遊興費を一時拝借することも可能なわけですから、細心の注意が必要です。「監査とか言う面倒なことは行ったことにして、だまって印鑑を押してくれ」とか言われた場合はまさに要注意でして、この場合こそ細心の注意をもって監査に取りかかってください。絶対何もしないで署名押印といったことは行わないでください。故意に不正を見過ごすということは共犯に等しいことです。
  第2のポイントの「記録者以外の者」が行うというのが、まさに「監査」の本質でして、人に見られることによって役員に正しくしなければと言うプレッシャーを与えることになるわけです。ところが町内会・自治会やPTAの場合は会計監査担当も他の役員同様行事等に参加しているわけですからはたして「記録者以外の者」と言えるのか微妙な所もあります。本来は会計監査担当役員は監査のみを行えれば良いのですが、ただでさえ人手が足りない組織において建前論ばかりも言っていられないかと思います。変な話ですが、監査担当役員は会計監査の際に気持ちだけでも「独立」した気分でいていてください。
  あとこの場で宣伝活動を行うつもりはないのですが、公認会計士等の外部の専門家に監査を依頼することも有効です。通常は数万プラス実費程度で大丈夫かと思います。
 
 新聞記事
 「自治会費を不正取得したとして、市営団地の自治会が元会長を相手取り、約280万円の返還を求めた訴訟の判決言い渡しが19日、佐賀地裁であった。同地裁は「会計報告書や預金通帳などの証拠から不正に取得したとみなされてもやむを得ない」として、元会長に約280万円の支払いを命じた。元会長側は「不正取得の事実はなく不満だ。控訴を考えている」としている。 
 判決によると、自治会の98年度の収入合計は約641万円、実支出額は約347万円で、預金通帳の残額は約14万円だった。差額の計約280万円が使途不明金となっている。元会長は会計を実質的に1人で担当していた。 
 元会長側は「差額はほかに使用した」と主張したが、判決は、使用先を認めるに足る証拠がないことや会長が98年度の会計の関係書類を焼却したことなどから、「供述は信用できない」とした。 
平成13年6月20日朝日新聞

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