第1章「金銭とのつきあい方」
自治会・町内会やPTAに関係する悩みは人間関係と金銭がらみかと思われます。人間関係の悩みの典型例は次の投書のようなものでしょう。
『毎年このころ、学校ではPTA役員の改選がおこなわれます。私の妹も昨年、子どもが3人もお世話になっているのだからとお引き受けし、無事にその役を終えたようです。しかし、妹はこの1年、いままで受けたことのないようないじめに苦しめられました。
夜間にPTAの副会長と会長夫人に呼び出され、午前2時まで延々と説教されたそうです。「あなたはいらないことばかりをしゃべる」「役員のくせになにも分かっていない」……。 (中略)
PTA役員になられた方にお願いです。役員になっても人より偉くなったと思わないで下さい。ボランティアをする気持ち、人と人との触れ合いを楽しむ気持ちでやってください。
妹はいま、人間不信になり、「人と話すのがこわい」と言っています。早く天真らんまんな妹にもどってくれることを祈っています。』
朝日新聞平成13年5月16日より引用
ここまで極端な事例は少ないかもしれませんが、役を引き受けたばかりに、人間関係に悩み後悔することはあり得ることです。残念ながら人間関係に関するトラブルに絶対的な解決法はありません。しかし金銭に関するトラブルは未然に防ぐことが出来ます。一定のルールを守りさえすれば、大丈夫です。第1章ではそのルールについて説明していきます。
1.金銭が動くと資料が動く
自治会・町内会ではまず会費を集めることから始まります。もしあなたが会費の徴収に伺い、徴収したお金を自分の財布に入れたとしたら失格です。お金に番号はついていますが、いちいち控えている人はいません。自分のお金と、会として預かったお金は明確に区分しておく必要があります。徴収したお金は封筒に入れて、相手にはきちんと領収書を渡すのが、基本です。PTAの場合口座振替が多いでしょうから、直接現金の授受を行う機会は少ないかもしれませんが、基本知識は身につけておいてください。
市販されている領収書には数種類あるようですが、控えが残る領収書を使用してください。領収書を渡すときのポイントは
・右上には連番を記入し
・相手名、日付を正確に記入し
・金額の前には「¥」マークをつけて
・但し書きも忘れないことです。
もちろん鉛筆ではなくボールペンで記入してください。
(また、割印を忘れないようにしてください。又右上の番号(連番)はあらかじめ記入しておくのが良いです。)
あと以外と面倒なのが記入間違いの時です。修正液で訂正したり、紙を貼ったりするのはダメです。元の金額等がわかるように訂正箇所を二重線で消し訂正印を押して、その上に正しい記入をするのは帳面の訂正なら良いのですが、領収書の場合は止めるべきです。
領収書の記入誤りの時は使用できないように、ボールペンで斜線を引いたうえで、折り曲げてホッチキスで留めておいてください。
また、複写式の領収書を使用するのも良いと思います。記入の際は下敷きを敷くのを忘れないようにしてください。
お金を支払ったときは領収書を受け取ることになりますが、必ず記載事項が適正かどうかチェックしてください。特に立て替え払いの時はこの領収書を基に会計から現金を受け取るわけですから、あなたにとって領収書は現金と同じことになります。きちんと保管しておいてください。
領収書の発行がないケースはどうしましょうか。ちょっとした交通費やコンビニでのコピー代等が該当するかと思います。頼めば発行してもらえないこともないでしょうが数百円程度なら面倒でしょう。このようなときは必ずメモを残すよう習慣づけておいてください。
またレシートを受け取ったときも、鉛筆で結構ですから但し書きを書いておくと良いかと思います。実はこれは税務調査の対応の基本でもあるのですが、「面倒がらずにこまめにメモを残す。」ことが大切です。
2.帳簿の作成方法
家計簿であれば収入と支出が多少一致しなくとも構わないのでしょうが、町内会・自治会やPTAの会計では1円まで一致させる必要があります。その一致させるための技術が「簿記」といわれるものです。「簿記」というと「借方」(かりかた)、「貸方」(かしかた)という耳慣れない用語があり、一般の方は難しいものと敬遠されがちですが、町内会・自治会やPTAの会計では基本さえ押さえておけば大丈夫です。
まず最低限作成すべき帳簿は「現金出納帳」と「預金出納帳」です。これらは市販されているノートを利用するのも良いでしょうし、又ルーズリーフの形式のものもあります。まず現金で1冊、預金で1冊用意していただき、図の記載方法に従って記入してください。家計簿に近いイメージですので特に問題は無いと思いますが、この方法の欠点は後で収入・支出の項目別の集計をするのが面倒だという点です・・・・・
(実は書籍ではこのあと簿記に触れていますが、どう考えても難しいですよね。家計簿で大丈夫です。お金の出入りを記録することが大事で、簿記なんて知らなくても問題ありません。また現在は表計算ソフトを使用される方も多いと思います。この際の注意点は次のとおりです。
・データをこまめにバックアップする・・・皆さん一度は痛い目に遭ってますよね
・定期的に紙に打ち出す・・・便利な表計算ソフトですがデータ変更の痕跡が残らないという欠点があります。
(紙の修正は、修正ペンではなく二重の訂正線を使います。)
また印刷時に日時を余白に記録しておいて下さい。)
家計簿、表計算ソフトどちらも問題は、あとで収入・支出を内容別に集計する必要があるので、どうするかということです。
以下のようなイメージのノートや、シートが役に立ちます。
記入の留意点
・一番上には「前年度からの繰越金額」を入れて下さい。このとき前期の会計報告書と一致させることが重要です。
・「科目」には会計報告書の項目名を使用してください。
・毎月毎に締め切りを行い、現金については金種表(1万円何枚、5000円何枚とかの要約表)を作成して一致を確認し、預金については通帳の金額との一致を確認してください。
3.領収書等の保存の仕方
全く難しいことはなく白い紙に日付順に領収書等を貼り付けていって、クリアファイルに入れるだけで出来上がりです。後の管理を考えて月ごとに区切りをつけて、また連番をつけて帳簿等の記録と一致させておけば良いでしょう。
4.出来るだけ口座振込を利用する
町内会・自治会、PTAいずれにおいても会としての銀行口座をお持ちかと思います。私の経験では利便性を考慮し地元の金融機関の口座が多いようです。会計の引継時に通帳を受け取ったならまず残高をチェックし、名義を変更する必要があります。銀行口座の良い点はいつ幾ら入出金があったかの記録が残ることです。反面振込等の際手数料がかかります。
町内会・自治会には市町村等から補助金が支給されることがあります。たいていは直接町内会等の口座に入金してくれるのですが、中には会長自ら印鑑持参で取りに行くケースもあるようです。先にも述べましたようにこれを自分の財布に入れてしまうのは誤りで、多少の手数料が掛かっても口座に直接振り込むようにしてください。もちろんその際の手数料は振込手数料等の名目で自治会負担にしても構いません。
あるいは町内会・自治会やPTAと同じ銀行の同じ支店に口座を持っていれば、カードを利用した同一銀行・同一支店間の振替は手数料が無料なので、何かと便利かもしれません。
PTAの場合は保護者の方に口座開設を依頼するのが通常でしょうから、出来るだけ現金の授受は行わないで口座振替を利用するようにしてください。
5.仮払いの際気をつけること
何らかの理由で、仮払金あるいは前渡金が生じることがあるかもしれません。この際の手順は以下の通りです。
仮払金の必要が生じたときはその人が承認書を書いて、役員の承認を得る。
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承認後会計が現金を手渡し、受け取った人は受領印を押す。
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支払等の際には必ず領収書等を入手する。
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速やかに精算書を記入し残金を返還する。
とはいえ、公認会計士として会社の指導をするときに
よくあるのですが、「速やかな精算」が出来ない人が世の
中にはいるものです。前回の仮払金の精算が終了する前に
次の仮払金の承認書が出てきたりした場合は、要注意です。
下に仮払金承認書兼精算書の様式例を示してありますが、ポイントは現金を受け取ったときに受領印もしくはサインを残すことと支出日と精算日を明らかにしておくことです。



